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健康増進法の一部改正は、社会がお寺に向かうか遠ざかるかの分岐点

境内の禁煙看板

 2020年4月1日から、健康増進法の一部を改正する法律が全面施行されます。これはお寺が見過ごしたままでいると、社会から目を背けられかねない要因となる施策です。

 そもそもこの法律改正は、望まない受動喫煙防止を意図して作られたものです。このためほーりーはこれから社会の喫煙に向けた視線は、ますます厳しくなるだろうと予測しています。しかしお寺社会は他の業界と比べても、人前での喫煙に甘いところがあります。なのでこのままだと、お寺と世間のギャップはより大きくなっていきます。

 (新型コロナウイルスで肺炎が重症化しやすい人に、喫煙者が多いことも指摘されていますので、この調査を始めたほーりーの当初予想よりも意識変化は加速するかもしれません)

 特にいろんな宗務組織のオフィスビルにお邪魔させて頂くと、喫煙所の環境によってその宗派に属するお坊さんの喫煙マナーに差があることが感じられます。

 喫煙所(というか、灰皿)を誰もが通る廊下にそのまま置いている宗派では、お坊さんと食事をしていても突然、人前でタバコを吸い始める方が多くいます。一方で喫煙所を人が通らない場所に設置している宗派では、そのような光景はあまり見られません。

 なのでこれはお坊さん個々人の意識というより、組織の問題です。仲間内でタバコを吸うことに遠慮が要らない環境であれば、副流煙がどれだけ嫌われているかには、考えが及ばないものでしょう。

 そこで今回は健康増進法改正と、社会の中でタバコに対する認識がどのように変化しているかをまとめます。

健康増進法の一部改正について

 今回の法律改正の中身は、おおざっぱにまとめると以下の通りです。

 ○多くの施設において屋内が原則禁煙となる
 ○20歳未満の方は喫煙エリアへ立入禁止になる
 ○屋内での喫煙には喫煙室の設置が必要になる
 ○喫煙室には標識掲示が義務付けになる

 この法律改正で、これから大きく手が加わるのは飲食店です。規模の大きなお店は屋内が原則禁煙になりますし、小規模なお店(資本金5000万円以下、客席面積100㎡以下)は経過措置として喫煙を可とすることもできますが、店内で喫煙可能なことを目立つ場所に提示する義務が生じます。

 このためタバコを嫌う人が喫煙可能店を避ける流れは、これからますます加速します。また20歳未満が喫煙エリアに立ち入ることも禁止されるため、子供連れはそもそも入店を断らなければいけません。

 さらにこの項目は、従業員にも適用されます。未成年の学生バイトなどは屋内、屋外を含めた全ての喫煙室、喫煙設備で、接客や清掃作業、お店のレイアウトによっては通路を通り抜けることさえできなくなります。

 そしてこうした一連の改正に違反すると、50万円までの過料が課せられます。昔はなあなあだった飲酒運転も罰則が強化されて社会の意識が変わった結果、今では人間としてあり得ないという目で見られるようになりました。

 このような状況を鑑みれば、喫煙には世間からますます厳しい目が向けられていくことは間違いないでしょう。

タバコは交通事故より38倍以上も死者を出している

 街中でタバコを吸える場所がどんどん失われていく。このような流れに対し、「喫煙者に対するいじめだ」と批判の声を挙げる方がいます。激しさは異なりますが、「タバコを吸うのに、肩身が狭くなっていく」という嘆き節も似た論調です。

 しかしほーりーはこうした意見に対しては、加害意識が決定的に欠けていると言わざるを得ません。

 厚生労働省の調査(リンク先は日経新聞の記事)によると、受動喫煙が原因で亡くなっている方は日本国内で年間1万5千人に上ります。

受動喫煙が原因で死亡する人は、国内で年間約1万5千人に上るとの推計を厚生労働省の研究班が2日までにまとめた。

(中略)

肺がんで2480人、虚血性心疾患で4460人、脳卒中で8010人、乳幼児突然死症候群(SIDS)で70人が死亡するとの結果になった。

 これって交通事故(2018年の警察庁発表によると3532人)で亡くなる方の4倍以上です。ついでに言えば交通事故は自分で起こした事故も含まれるため、他人のタバコのみの受動喫煙と比べるのもおかしな話です。

 なので正確を期して自分のタバコで命を落とした人(年間12~13万人)もプラスして比べるなら、タバコは交通事故より38倍以上も死者を出していることが分かります。

 もちろん交通事故と異なり、タバコと死の因果関係は素人には見えづらいものです。しかし各種の疫学調査では、肺がんを始めとした疾病リスクは明確に示されています。

 そして上記の受動喫煙で亡くなった人のうち、70人は乳幼児突然死症候群(SIDS)です。タバコは生まれたばかりの幼い命すら容赦なく奪っています。

 こうした状況が明らかになってきた今、人前喫煙は他者に刃物を向けていることと同じです。そしてそれを長期で繰り返すなら、それは他人が死んでも構わない惰性的な殺意(それこそ飲酒運転と同じようなもの)と見られることを、そろそろ認識すべきでしょう。

 少なくとも不殺生を旨とするお坊さんであれば、人前でタバコを吸うことは大きな矛盾です。

喫煙者は日本から毎年2兆円ずつ奪っていく

 喫煙者の言い分として、タバコを吸うことは社会の役に立つ。このような意見を聞くことがあります。

 その根拠は『たばこ税』です。タバコの価格には国たばこ税、地方たばこ税、たばこ特別税、消費税の4種類もの税金が含まれています。そして銘柄によっても異なりますが、一般的な紙巻たばこの税負担率は6割以上です。ビールやガソリンは5割弱なので、他の商品と比べてタバコの税負担は高水準です。

タバコ税収の推移

 またその総額は年によって異なりますが、消費税を除けば約2兆円で推移しています。国税収の1.5%、地方税収の2.5%をタバコにのみかかる税金が占めているため、「タバコは社会を良くしている」という言葉にも、うなずきそうになります。

 しかしこれは先に述べた健康被害などに対する支出と比べると、まったく異なる結論に達します。

 医療経済研究機構によると、喫煙による労働力損失は2.4兆円、健康被害に対する超過医療費は1.8兆円、火災や清掃のコストは0.2兆円となり、合計で年間4.4兆円に上りました。なお、この金額は喫煙者個人が自ら進んで支払う項目を除き、個人、産業、国レベルが受ける社会的損失のみを対象として推計されたものです。

 つまり喫煙者が支払っている税金の倍程度を、社会が(金銭面だけでも)失っています。簡単に言えばタバコは吸えば吸うほど、日本が貧乏になるわけです。

 グラフにすると、このような形になります。

タバコによる経済損失

ということで、、、

 今回は主にタバコの健康被害と経済損失を、まとめてみました。

 喫煙・禁煙の議論が感情的になりやすいのは、どちらもお互いを嫌っているためです。しかし現在の日本では、8割以上の人が非喫煙者です。5人に4人以上がタバコを吸わない現状、一部の声の大きな人の意見だけで人前喫煙を認め続けると、サイレントマジョリティーたる非喫煙者はお寺からどんどん逃げていきます。

 以前、『寺社が境内を禁煙にすることは、子育て世代へのメッセージだ!』という記事を書きましたが、これから若い世代にもお寺に来て頂きたいならなおさらです。

 健康増進法の改正は、直接お寺に言及したものではありませんが、こんな時ほど積極的に境内全面禁煙化や受動喫煙防止策を取ることが、世の中をリードすることにつながります。

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